コラム

断ち切られたものと決して断ち切られることのないもの

愛する人との別れは、それ自体(一次喪失)とそこから派生する二次的喪失に分けることができます。もちろん最も辛く苦しいのは一次喪失であり、これがなければ二次的喪失は起こりません。

一次喪失を理解し受け入れること自体が最も困難な作業であり、時間のかかることなのですが、その分、時間をかけて情報を整理していくと色々気づくこともあります。

今回は「すべてを失ってしまった」と思い込み、死別直後では気づけなかったことについて整理します。

本当にすべてを失ったのか

大切な人、一生を誓い合った人が目の前からいなくなってしまう―この事実は、経験した者でなければその真の意味を理解することはできないでしょう。

ましてや若くして死別するということは、熟年での死別とは意味が異なります。それによって失われた未来や希望も含まれるからです。

「ずっと一緒に」と誓い合った相手を失うことで、自分自身のアイデンティティの喪失にも直結しますから、すべてが消えてしまったと思うのはごく自然なことです。

そしてグリーフワーク、グリーフプロセスは「人生の再構築」です。バラバラに粉々に砕けてしまった人生をもう一度最初から(できればあの人と一緒に)組み立て直すのです。

そう考えると一見、完全に壊れてしまったかのように聞こえてしまいます。しかしそれは本当にそうなのでしょうか?壊れていないものはないのでしょうか?

簡単に分けてみましょう。

断ち切られたもの断ち切られていないもの
・肉体
・その他触れられるもの
・価値観
・魂
・愛情
・関係性

このように、目に見えないものの方が、実は多く残っているわけです。ただ、私たち人間は実在するものに安心するのです。触れられるものに安心します。反応があるものに安心します。

それはつまり、「存在」を直接感じられるからです。

にもかかわらず、存在を感じられるから安心するのに、その筆頭である肉体、反応といったものを失ってしまっています。

だから孤独や寂しさを感じるわけです。

信じるということ

確かに、この世ではもうあの人に会うことはできません。亡くなった人が肉体とともに戻ってくることはないからです。

しかし、だからといって完全孤立になってしまったのでしょうか。前述の表のように、失っていないものがあったはずです。それらは無視できるのでしょうか。そうではありません。

「見えないもの」については、私たちが「信じる」という行為が求められているだけなのです。

愛する人が懸命に生きた証や言葉は、確かに触ることはできません。身に着けることもできません。しかしながら、私たちはそれを確かに感じることができます。確かに受け継いでいく事ができるのです。

そのためには、「信じる」ことが重要であり、その信じる行為は、愛する人と過ごしたかけがえない時間、関係性の中で培われてきているもののはずです。だからこそ信じることができる。そして目に見えないものの存在を認め、それを学習することができるわけです。

なかなか信じにくいということもありますが、結局のところそれには個人差があります。またその結果、「やはり不安だ」ということもあるかもしれません。「自分の都合のいいように解釈してしまうし、あの人の声なんて聞こえない」と思うかもしれません。

ただ、それを言うならいつだって一緒です。なぜなら、肉体が存在していても、浮気や不倫はするかもしれないし、何か犯罪を犯すかもしれないのです。つまりシンプルに考えると、私たちが「あの人」を全面的に信じるかどうかは、自分たちにかかっているということです。

簡単ではないかもしれませんが、愛するという行為を継続している私たちは、その根幹に「信頼」があることを知っています。夫婦として一つになった時に、その信頼を担保したはずです。

私たちには、目に見えるもの、触れられるものは確かに今はありませんが、目に見えなくても、触れられなくても大切なものは沢山あることを知っています。

グリーフは人生の再構築であると言いましたが、どの部分にフォーカスするのかは、自分自身で選択することができるのです。

私たちはフォーカスするものを基にして、再構築をしていくことになりますから、少しずつでも「断ち切ることができないもの」をピックアップし、そしてそれをひとつひとつ愛していく事が重要なのです。

今日はそんなことを想いながら過ごしています。

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dan325

10年ほど前に妻を癌で亡くしました。若年死別経験者。愛する人や大切な人の喪失や死別による悲嘆(グリーフ)について自分の考えを書いています。今まさに深い哀しみの中にいる方にとって少しでも役に立てれば嬉しいです。

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