グリーフの知恵

ナラティブアプローチ

ナラティブ アプローチ(Narrative Approach)は、グリーフワークにおいては非常に有効な手法です。ナラティブアプローチを知ることで、ご自身のグリーフワークをより深く、よりしっかりと行うことができるようになります。

 

ナラティブとは

ナラティブ(Narrative)は、「物語」という意味ですが、「社会構成主義」という考え方に基づくものです。

社会構成主義

https://ja.wikipedia.org/wiki/社会構成主義

上述のように社会構成主義では、人間関係は他者との対話やそこから得られる意味づけなどを言語的に構築するとあります。つまり「関係性から意味が生まれる」ということです。

ナラティブは、まさに、自分自身と愛する人との関係性から物語を紡ぐ手法だと言えます。

変わるもの、変わらないもの

ナラティブアプローチを使ったからと言って事実は変わりません。愛する人が亡くなった、失ってしまったという事実は消えません。

とても残念ですが、これは唯一不変のものでしょう。しかし、変えられるものはあります。それはあなたの「解釈」です。

「想定の世界」という言葉があります。私たちは普段、「想定の世界」に住んでいます。

例えば、「朝6時に起きて顔を洗って歯を磨いて、旦那の食事の準備をして、慌ただしく一緒にご飯を食べて、着替えて仕事に行く」というようなことは、すでに習慣化しており、それらは自分で想像できる/想定できる事柄です。

ところがここに突然「伴侶の喪失」が発生したとき、この「想定の世界」はいとも簡単に崩れ去ってしまうのです。夫婦として絆を深めあっていた関係性が崩壊し、自分の世界がリセットされてしまいます。

そして、ここからグリーフワークにおけるナラティブアプローチ、ナラティブセラピーがスタートするのです。

「愛する人が旅立った」という事実は変えられませんが、それまでの愛に満ちた関係性を再度言語にし、自身の認識を強めることもできます。「生きていても死んでいても愛は変わらないのだ」という意識や「私たちは、死によって別れを強制されたかもしれないが、生死を超越した絆を持っているのだ」と考えることもできます。「その根拠は、生前、あの人はこんなことを話してくれたから」といった事実に基づくストーリーを強化することによって、私たちはナラティブに救われるのです。

つまり「あなただけの物語」が「喪失の意味」を作ってくれるのです。

ナラティブに語ることで自らを赦す

グリーフでは、2人の人生のストーリーを想定し生活していたところから一転、独りぼっちのストーリーに展開します。愛する人が生きていた時間と、死後との間に大きな断絶が起き、私たちはそれに適応することができません。

喪失により私たちの生活は一変します。そのほとんどがネガティブな方向への変化です。

激しい後悔、罪悪感などを日々抱えながら、沸き起こる様々な問題に対処しなければなりません。「どうして自分だけこんな目に逢うのか」と思うことは数えきれないほど起きるでしょう。生前の想定の世界からは完全にかけ離れた世界に住んでいるのだと認識します。

しかし、もしナラティブというキーワードを知っていたら、私たちは一瞬立ち止まることができます。無意識に勝手に物語を作っていたのかもしれません。

その時、私たちは気づきます。「あの人がいた生前と、死後でストーリーが変わってしまっている」ことに。

ではどうすればいいのか。答えは簡単です。「人生の筋書きをかえて、つじつまを合わせる」ことが重要なのです。もちろん簡単ではありません。しかしこれこそがグリーフワークにおけるナラティブアプローチです。

そして、このナラティブ(物語)には、自分だけのグリーフである必要があります。死別体験、喪失体験は、完全に個人的な経験ですから、そこに至るまでの文脈は誰とも一致しません。

物語には文脈が必要です。その文脈を失うことなく、ナラティブにストーリーを語ることができるとき、私たちは愛する人ととの絆を再確認し、結びなおす事になるのです。

物語を構築し、自分を改めて認められたとき、私たちは、自らを赦すことができるのです。

 

 

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dan325

10年ほど前に妻を癌で亡くしました。若年死別経験者。愛する人や大切な人の喪失や死別による悲嘆(グリーフ)について自分の考えを書いています。今まさに深い哀しみの中にいる方にとって少しでも役に立てれば嬉しいです。

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